湯浅ちひろ

イスラエルのガザ侵攻が始まると穏やかな生活は奪われることになった。サイレンがなって、15秒以内に防空壕に逃げ込まなければ死ぬ可能性がある… 仕事が終われば、ビールを片手にプールの日々は、防空壕での生活に変わった。ずっと防空壕は掃除もされずに若者たちの溜まり場であった。夜になると若い男女が密会する場所なのだ。 アインハセロシャは平和だった。沈む夕日は美しく、イスラエルから見たガザの空はいつも大きかった。遊牧民のおじいさんと仲良くなり、お茶を飲みながら、夕日の写真を撮ることが日課になっていった。常駐していたイスラエル軍の兵士たちも混ざってお茶を飲むこともあった。爆弾の数が増して、防空壕から出られなくなり、夕日を見ることも許されなくなった。 ポコという犬がいて、犬が嫌いな私になぜかなついた。おじいさんに会いに行くとき、夕日の写真を撮るとき、いつでもくっついてきた。サイレンがなるとポコも一緒に防空壕に入る。サイレンがなりやんでも、ポコは防空壕から外に出なくなった。震えが止まらない犬を見て、ここが異常な場所なのだと認識した。